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『転がる香港に苔は生えない』 星野博美

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 わたしが香港を旅したのは5年前のこと。返還から15年が経っていた。
人生初の海外が強烈なインドだったためか、街の喧騒や混沌に驚かされることはなかったけれど、著者が暮らした返還前の香港は、もっとエキゾチックさが残る街だったにちがいない。
活写されている独自の価値観を持った人々に心底驚き、旅する前にこの本を読んでいなかったことを強く後悔するくらいインパクトある一冊だった。
なんにせよ、帰国後、じわじわといかにおもしろい国だったか気づいていった事実が、じぶんも香港に魅了されたひとりであることの証だ。

巌となりて苔の生すまで—―
国歌でそう謳う日本に対して、タイトルのとおり香港は転がり変化し続けて苔の生えるヒマもない。今、さかんに論じられている移民問題と、これほど密に、これほど昔から向き合ってきたことすらよく知らなかった。香港人は一生安心して眠りにつくことはない。そう断言されてしまう意味があまりに重い。
5年前、香港島でひろったタクシー運転手さんが、英語で行き先を告げたときビミョーな顔をしてたわけが、本書を読んでやっとわかった気がする。

それにしても、一度でいい、今は無き啓徳空港に降り立ってみたかったものです。
香港を語るうえで欠かせない象徴として存在していた、世界有数のスリリングな着陸が体験できた空の玄関口は、返還の翌年、閉鎖されてしまった。著者の筆からも、計り知れない喪失感を感じる。

愛すべきカンフー映画があり、一生食べ続けても飽きないだろう美味しい飲茶がある国へ。いつかまた旅してみたいな。そのころには香港はどんな風に変わっているだろう。
by haru-haru-73 | 2017-05-06 22:00 | | Comments(0)