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『ふるほん文庫やさんの奇跡』 谷口雅男

『ふるほん文庫やさんの奇跡』 谷口雅男_d0346108_22503945.jpg とんでもない人がいたものだ。
四半世紀前、10年越しで叶えた計画は、事業の失敗と谷口氏の失踪という結末とともに人々の記憶に刻まれている。
古書店アルバイトがどんな色眼鏡で見たとしても、古本屋は古物商であるかぎり因果で、著者が事あるごと反面教師といって憚られないほどに、今なお後進的。
かといって諦めて体質を変化させてしまっては〇mazonと同じになってしまう。それでは全く味気がない。

日本の誇る文庫化文化は素晴らしい。
持ち運びに便利で廉価、その全てを網羅する店を作りたいと孤軍奮闘を始めた谷口氏の心意気と行動力には感心させられるばかり。
とはいえ古書店へいく楽しみはまだ見ぬ単行本にあって、文庫はおまけ的である。
あれよという間に客足が止まり、売り上げが半減していく過程をみながら、たとえ札幌にあったとしても足繁く通うとはおもえないし、老舗古書店のほうがどんなにか楽しいだろう。

目下失踪ちゅうの著者が往年綴った過激な文章は、読む人を当然選ぶ。わたしは時々反吐が出そうになった。偏執的なヤバイ人、ちょっといやかなりの異常者。
数字を出しては誇大妄想的な甘言を並べ、次には追い詰められている。転んでもただでは起き上がらないのループ。
事業の答えは失敗として出ているけれど、いつ、どの段階で、劣悪待遇でこき使ってきた元社員が店内で自殺を図ったのか、そこまでは当然わからない。印税を次の事業に回すべく執筆した本書は、まだきれい事が並んでいる段階だ。

50年間×365日=18,250冊。人が生涯に読める本はせいぜい2万冊なのだそうだ。
こうあらためて聞くと少ない。一日に数本観られる映画とはやはり違う。
月に数冊しか読まないわたしの生涯読了本なんて微々たるものだ。そんな古書店アルバイトの本好きが、内と外から古書業界をみつめているいま、本書に考えさせられるところは大きかった。本質的な問いも多くあった。
それが毒舌な独壇場で薄められてしまっているのは厄介だけれど、足りない謙虚さよりも、稀有な独裁者にしか成しえなかったことを一時でも成功させた事実は、知れてよかったとおもう。
古書店で軽んじられる文庫をいかに大切に扱えるか、アルバイトだからこそできることが、あればいいのに。

by haru-haru-73 | 2020-07-04 11:25 | 古書店アルバイト日誌 | Comments(0)